誕生月と体格・成績の関係を見てみた

「誕生日が遅くて小さい馬は買いなのか」という質問をもらった。人間の学年でいう早生まれ・ 遅生まれと同じで、馬も暦年(1月〜12月)の中で誕生日が遅いほど、募集時点ではまだ若く、 体高・馬体重が小さく出やすいはず。だとすると前回の体高の記事で 見た「体高が小さいと成績もやや振るわない」という傾向は、単に「誕生日が遅いだけの若い馬」を 不当に評価し損なっているだけかもしれない。逆に「誕生日が早いのに小さい馬」は、同期の中で 年齢的なアドバンテージがありながら小さいわけで、より注意すべきシグナルとも考えられる。 この仮説を2017〜2025年募集(815頭)のデータで確かめてみた。

馬にも「早生まれ効果」ははっきりある

まず誕生月の分布から。2017〜2025年募集は1月〜6月に 集中していて、2〜3月がピーク。

誕生月の分布(全815頭)

115頭1月重賞馬7頭226頭2月重賞馬15頭218頭3月重賞馬11頭183頭4月重賞馬9頭72頭5月重賞馬2頭1頭6月重賞馬0頭

誕生月の分布(全815頭): 1月 頭数 115頭(重賞馬7頭)、 2月 頭数 226頭(重賞馬15頭)、 3月 頭数 218頭(重賞馬11頭)、 4月 頭数 183頭(重賞馬9頭)、 5月 頭数 72頭(重賞馬2頭)、 6月 頭数 1頭(重賞馬0頭)

誕生日を「その年の何日目か」という数値に直して体高・馬体重との相関を取ると、 体高でr=-0.291、馬体重でr=-0.410。どちらも 「誕生日が遅いほど小さい」向きにはっきりした相関があり、体高のばらつきのかなりの部分が 誕生日だけで説明できてしまうくらい強い。月別の平均体高を並べても一目瞭然で、1月生の平均155.4cmから5月生の平均152.5cmまで、 月が進むごとにきれいに下がっていく。「早生まれのほうが大きく出る」は馬にも そのまま当てはまる

誕生月別 平均体高

155.4cm1月生155.2cm2月生154.0cm3月生153.1cm4月生152.5cm5月生

誕生月別 平均体高: 1月生 平均体高 155.4cm(頭数115頭)、 2月生 平均体高 155.2cm(頭数226頭)、 3月生 平均体高 154.0cm(頭数217頭)、 4月生 平均体高 153.1cm(頭数182頭)、 5月生 平均体高 152.5cm(頭数71頭)

体高記事の傾向は、遅生まれ馬を不当評価していただけなのか

ここが冒頭の仮説の核心。誕生日で「その馬が生まれた時期にしては体高が高いか低いか」を 補正した年齢調整後の体高(誕生日から回帰で予測される体高との差分)を作り、 これと成績の相関を取り直した。素の体高×獲得賞金合計の相関はr=0.111(前回の体高記事と同じ値)。年齢調整後の体高×獲得賞金合計は r=0.115で、ほとんど変わらなかった。つまり体高記事で見た 「体高が小さいと成績もやや振るわない」という傾向は、遅生まれの若い馬を不当に評価し 損なっていたわけではなく、誕生日を考慮してもなお残る差らしい。この時点で、冒頭の懸念は データ上は支持されなかったことになる。

ただしこれは連続的な回帰の話で、「小さい馬」を早生まれ/遅生まれで直接比べたときにどうかは 別に見る価値がある。それが次の本題。

本題: 「小さい馬」を誕生タイミングで分けると成績はどう違うか

2017〜2025年募集のうち、まだ大半が未出走の2025年募集を除いた719頭を、 誕生日(通し日数の中央値)と体格の2軸で4グループに分けた。「大きい/小さい」は体高 (中央値154cm)・馬体重(中央値443kg)の両方を見て判定している。 体高と馬体重の相関はr=0.649で多くの馬は連動するが、 「体高は高いのに馬体重は軽い」ような食い違いも196頭 (全体の27%)いる。実際にどう 判定されるか、4パターンの実例で見てほしい。

体型パターン馬名体高馬体重判定
体高も馬体重も大きいメガラニカ161cm586kg大きい
体高も馬体重も小さいハッピージャズ143.5cm387kg小さい
体高は高いが馬体重は軽いブロードリーチ158.5cm410kg大きい
体高は低いが馬体重は重いサクロモンテ151cm466kg小さい

体高・馬体重どちらも並より大きい/小さい馬は分かりやすいが、片方だけ大きい・軽いような 馬は、体高・馬体重を標準化して平均した「体格スコア」でどちらかに寄せて判定している (体高だけ・馬体重だけで見ても結論の向きは同じだった)。頭数は大きい360頭・ 小さい359頭。出走済み672頭での平均総賞金は次の通り。

誕生タイミング×体格 4グループの平均総賞金

3,902万円早生まれ・大きい中央値1,380万円・重賞馬率10.2%1,952万円早生まれ・小さい中央値710万円・重賞馬率2.5%5,013万円遅生まれ・大きい中央値2,063万円・重賞馬率10.7%2,521万円遅生まれ・小さい中央値821万円・重賞馬率2.8%

誕生タイミング×体格 4グループの平均総賞金: 早生まれ・大きい 平均総賞金 3,902万円(出走済み頭数215頭)(中央値1,380万円・重賞馬率10.2%)、 早生まれ・小さい 平均総賞金 1,952万円(出走済み頭数121頭)(中央値710万円・重賞馬率2.5%)、 遅生まれ・大きい 平均総賞金 5,013万円(出走済み頭数121頭)(中央値2,063万円・重賞馬率10.7%)、 遅生まれ・小さい 平均総賞金 2,521万円(出走済み頭数215頭)(中央値821万円・重賞馬率2.8%)

「小さい」馬同士で比べると、遅生まれで小さい馬(平均2,521万円)は、 早生まれなのに小さい馬(平均1,952万円)より成績が良い。 中央値でも同じ向き(821万円 対710万円)で、上位3%を 除いた平均で見ても1,807万円 対 1,346万円と、 一部の高額稼ぎ馬に引っ張られた差ではなさそうだった。「大きい」馬同士でも同じ向きの差があり、 遅生まれで大きい馬(平均5,013万円)は早生まれで大きい馬 (平均3,902万円)よりむしろ差が大きい。つまり体格スコアで 見た限り、大きい・小さいどちらの階層でも「遅生まれの方が成績が良い」という同じ向きの傾向が出た。

ただし統計的に「有意」ではなく、交絡もある

見た目の向きは一貫していたが、そのまま「遅生まれの方が買い」と言い切れるほど強い差ではない。 早生まれ・小さい(n=121)と遅生まれ・小さい(n=215)の総賞金差を Mann-Whitney U検定にかけるとp=0.359。「大きい」馬同士 (早生まれn=215・遅生まれn=121)で同じ検定をかけると p=0.067で、こちらの方が一般的な有意水準(0.05)に近い。ただしどちらも 0.05は下回っておらず、統計的に「有意」とは言えない。重賞馬率で見ると、大きい群は 早生まれ10.2%・遅生まれ10.7%、 小さい群は早生まれ2.5%・遅生まれ2.8%とどちらもほぼ差が無く、平均・中央値の差ほどには 重賞級の実績の出やすさには表れていない。

募集年・性別の構成も確認したところ、偏りは見つかったが向きは一様ではなかった。小さい馬 グループは早生まれの方が平均募集年がやや新しく(2020.8年 対2020.6年、稼ぐ時間が短いぶん差を実際より大きく見せる 方向)、逆に大きい馬グループは遅生まれの方がわずかに新しい (2020.6年 対2020.5年、 こちらは差を実際より小さく見せる方向)。募集年ごとに賞金を標準化(同じ年の募集馬同士でしか 比べない)したz得点で比べ直すと、小さい群は早生まれz=-0.209・遅生まれ z=-0.144で差はいくらか縮み、大きい群は早生まれz=0.104・ 遅生まれz=0.279で標準化後も向きは変わらなかった。総合すると「傾向としては 一貫してありそうだが、確信を持って言い切れる差ではない」というのが正直なところ。

実際にどんな馬がいたか

相関係数や検定の話ばかりだと実感が湧かないので、実際に重賞を勝った44頭を 獲得賞金の多い順に紹介する。体格スコアで「小さい」側に入る馬も9頭 重賞を勝っており、体高・馬体重が並より小さくても大きく稼ぐ馬は普通にいる。中でもドゥレッツァは遅生まれ・小さい グループに入りながら23'菊花賞(G1)を勝ち、 獲得賞金合計47,217万円を稼いでいる。 こういう馬に出会えるのが一口馬主の醍醐味でもある。表が長くなるので、開いているのは上位10頭で、 残り34頭はその下の折りたたみに入れてある。

馬名募集年誕生月体高馬体重母齢一口価格主な勝鞍通算成績獲得賞金合計
エフフォーリア2019年3月158cm489kg10歳7万円21'有馬記念(G1)11戦6勝77,663万円
タスティエーラ2021年3月158cm478kg7歳7万円23'日本ダービー(G1)15戦4勝65,897万円
ヴェラアズール2018年1月160cm483kg11歳4万円22'ジャパンC(G1)27戦6勝54,968万円
サートゥルナーリア2017年3月156cm484kg15歳35万円19'皐月賞(G1)10戦6勝52,358万円
ヘデントール2022年4月154cm444kg9歳9万円25'天皇賞(春)(G1)11戦6勝51,610万円
ナミュール2020年3月157cm424kg10歳6.5万円23'マイルCS(G1)18戦5勝50,963万円
ドゥレッツァ2021年4月154.5cm428kg12歳10万円23'菊花賞(G1)13戦5勝47,217万円
レシステンシア2018年3月153.5cm482kg8歳6.5万円19'阪神ジュベナイルフィリーズ(G1)18戦5勝44,952万円
シックスペンス2022年4月151cm429kg9歳12.5万円26'安田記念(G1)14戦6勝42,069万円
レイパパレ2018年1月155cm420kg15歳15万円21'大阪杯(G1)15戦6勝39,314万円
残りの34頭も見る(獲得賞金11位以下)
馬名募集年誕生月体高馬体重母齢一口価格主な勝鞍通算成績獲得賞金合計
クリソベリル2017年2月161.5cm498kg15歳14万円19'チャンピオンズC(G1)11戦8勝37,960万円
ライトウォーリア2018年2月157cm458kg8歳5万円24'川崎記念(G1)40戦10勝31,809万円
シュヴァリエローズ2019年5月154cm402kg17歳20万円24'京都大賞典(G2)38戦5勝29,266万円
カテドラル2017年2月155.5cm452kg13歳10万円21'京成杯オータムハンデキャップ(G3)37戦4勝22,223万円
セラフィックコール2021年2月158cm485kg8歳7.5万円24'ダイオライト記念(G2)18戦7勝21,553万円
ワールズエンド2022年2月152cm426kg11歳17.5万円26'京王杯スプリングC(G2)11戦5勝19,900万円
マルシュロレーヌ2017年2月156.5cm458kg15歳7.5万円21'ブリーダーズCディスタフ(G1)22戦9勝19,327万円
スルーセブンシーズ2019年4月156cm457kg13歳4.5万円23'中山牝馬S(G3)14戦4勝19,170万円
グランディア2020年3月156cm426kg18歳14万円26'新潟大賞典(G3)27戦5勝17,996万円
パントルナイーフ2024年4月156.5cm441kg12歳20万円25'東京スポーツ杯2歳S(G2)5戦2勝17,478万円
ザダル2017年2月155cm454kg9歳4万円22'京都金杯(G3)16戦6勝16,996万円
ラヴェル2021年2月161cm469kg11歳7.5万円24'チャレンジC(G3)17戦3勝16,594万円
バーデンヴァイラー2019年3月156cm448kg17歳12.5万円23'佐賀記念(G3)20戦7勝15,280万円
コントラチェック2017年4月155cm449kg17歳15万円21'オーシャンS(G3)19戦5勝15,089万円
キラーアビリティ2020年1月155cm447kg11歳25万円21'ホープフルS(G1)18戦3勝14,431万円
パラレルヴィジョン2020年2月156cm447kg8歳12.5万円24'ダービー卿チャレンジT(G3)23戦6勝13,898万円
ベレヌス2018年3月156cm457kg9歳4万円22'トヨタ賞中京記念(G3)32戦6勝13,882万円
グルーヴィット2017年4月151.5cm444kg10歳9万円19'トヨタ賞中京記念(G3)25戦4勝12,919万円
ノーヴァレンダ2017年2月159cm512kg14歳7万円18'全日本2歳優駿【国際交流】(G1)18戦6勝11,954万円
フェブランシェ2021年1月160.5cm518kg15歳6万円25'スパーキングレディーC((G3)18戦6勝11,312万円
シュトラウス2022年1月160cm522kg19歳12.5万円23'東京スポーツ杯2歳S(G2)15戦4勝10,337万円
モントライゼ2019年4月152cm462kg10歳7.5万円20'京王杯2歳S(G2)29戦3勝9,522万円
クラージュゲリエ2017年2月156cm460kg11歳12.5万円18'ラジオNIKKEI杯京都2歳S(G3)12戦2勝9,299万円
ロックターミガン2024年3月160.5cm516kg11歳8万円京浜盃7戦3勝8,711万円
ファンダム2023年2月153cm460kg7歳9万円25'毎日杯(G3)8戦3勝8,191万円
ダイアナブライト2017年1月154cm453kg8歳14万円21'クイーン賞(G3)18戦5勝7,780万円
スキルヴィング2021年3月162cm506kg10歳8.5万円23'青葉賞(G2)5戦3勝7,402万円
サンクテュエール2018年2月151cm443kg11歳20万円20'シンザン記念(G3)16戦2勝7,083万円
パッシングスルー2017年3月159cm462kg11歳5万円19'紫苑S(G3)13戦3勝7,052万円
ギリーズボール2024年5月156cm423kg14歳12.5万円26'フィリーズレビュー(G2)4戦2勝6,078万円
カナルビーグル2023年2月156cm453kg11歳9万円25'ユニコーンS(G3)7戦3勝5,898万円
フィリアプーラ2017年4月149.5cm426kg16歳5万円19'フェアリーS(G3)16戦2勝5,697万円
サンダーストラック2024年2月158cm490kg9歳20万円26'シンザン記念(G3)6戦2勝5,018万円
トータルクラリティ2023年1月155cm436kg11歳7.5万円24'新潟2歳S(G3)10戦2勝3,858万円

補足: 現2歳(2025年募集)のデビューの早さは誕生日と関係あるか

主要な比較からは除いた2025年募集93頭についても、誕生日とデビューの早さの 関係だけ軽く見ておく。2026年8月時点でデビュー済みは13頭のみで、 誕生日(通し日数)とデビュー済みかどうかの相関はr=-0.019。 ほぼゼロで、今のところ「早生まれの方が早くデビューしている」ような傾向は見えない。 ただしデビュー済みがまだ13頭しかなく、判断するには早すぎる参考値。

まとめ

データについて

誕生日は個体ページのプロフィール表から取得したもの。体高・馬体重は募集時点の測尺で、 実際に測った日付までは分からないため、「誕生日から募集時点までの月齢」ではなく 「その年の何日目に生まれたか」を代わりの尺度として使っている。同じ年度の募集馬は 同じ時期に測尺されている前提だが、実際に数日〜数週間のズレがある可能性はある。 競走成績は2026年8月時点のスナップショットで、2025年募集(現2歳)は大半が未出走のため 主要な比較から除外した。獲得賞金は中央(JRA)・地方(NAR)の合計で、海外レースの賞金は 含まれていない。相関係数・検定の結果はあくまで目安で、出資判断の材料というより 趣味の分析として楽しんでもらえたら。

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